UNKNOWNS短編〜究極の娯楽〜

 ローグのシルバリオスに対しての感情を一口に表すのは難しい。
 もっと判りやすい表現をするならば、「好き」か「嫌い」か二択で選べと言われれば、これはローグにとって実に複雑怪奇な超難問と言える。
 まぁ、実際問題問い質されれば彼は冗談めかして「嫌いに決まッてンだろバーカ」等と宣うのだろうが。
 実際、シルバリオスのあの常に上から目線。「絶対上位存在的態度」は「常時過激的反骨精神旺盛」なローグにとっては、実に、実に気に入らない事柄なのであった。
 それはもう、腕にたかる蚊程度には。
 一方で、シルバリオスの側に居るのはどういう訳か、こう、「安心」する。
 絶対害悪存在たるシルバリオスの側に居て安心するというのもおかしな話ではある。
 恐らくは、根本に似通っている部分があるのだろう。魂の奥底に揺蕩う悪の波紋の、その波形が。
 悪を美学とする魔神を、悪の具現たる亡霊が求めるのも、それはそれで至極当然の事なのかもしれない。
 或いは、ローグの内に潜むもう一つの人格の所為だろうか。
 「アガトラム(銀の腕)」その名は他ならぬシルバリオス様より賜ったと、彼は誇らし気に言う。
 家庭に恵まれず。来る日来る日も罵詈雑言と暴力の嵐。
 楽しみといえば、父や、母や、兄の目を盗んで、父の書斎にある魔道書を読む事だった、哀れでボロ雑巾のような少年。
 そんな少年の首根っこを掴むように、はたまた髪を掴んで引き摺るようにして、地獄から掬い上げた者こそがシルバリオスであり、その少年こそ後のアガトラムであるのだ。
 少年の眼には、彼が救世の神にでも見えた事だろう。
 シルバリオス的には、使えそうな犬が居たから元から巻いてあった首輪を引きちぎって新しい首輪を巻き付けたに過ぎないのだが。
 アガトラムとローグ、二つの存在は身体的にも精神的にも融合しているので、アガトラムのシルバリオスに対するその信仰が、片割れのローグにも影響を与えていないとは言い切れないし、与えているとも断言できないので、シルバリオスの側にいる時のこの安心感が、自分由来なのかアガトラム由来なのか判然としないのだ。
 「好き」か「嫌い」か選び難いというのは、つまりそういう事なのである。




 これまでの長ったらしい前置きで、読者諸君に伝えたい事はただ一つ。
 ローグがシルバリオスのマイルームに置いてある棚の中に直通のワープホールを置いておいて、突然シルバリオスの私生活に突撃するという事に何の躊躇いも無いという事である。
 だって、やっぱり嫌いなものは嫌いだし。





「Helloooooooシルバリオスくうううーーーーーんんッッッ!!!!!」
 挨拶というのはとても大事な事である。
 ローグは常識と人間的倫理観に従って、元気な声で挨拶しながらその棚の中から現れた。
 さて、部屋をぐるりと見渡せば、上品な壁紙に、上品なシャンデリア、上品なソファーに掛けていたのは、当然の事ながらシルバリオスで、普段身に付けている無駄にモッフモッフした服とは打って変わってラフな装い。
 しかし何より眼を引いたのは、シルバリオスの前方訳1mに鎮座した、この部屋の中では些か無粋な、薄い長方系の物体。
 より詳しく示すなら、その物体に映し出された。
 物理的にも生物学的にも存在し得ない、「平面体の少女達」の姿であった。
 
 シンキングタイム。
 平面体の少女達の黒髪おかっぱ頭の方をA。
 金髪フワフワツインテールの方をBと仮称する。
 まず考えられるのは、シルバリオスによって捕らえられた奴隷A、Bが、なんらかの魔法によってこの長方形の物体に閉じ込められた説。
 答えはNONである。奴隷にしては彼女らは綺麗すぎるし、幸せすぎるように見える。
 次。
 シルバリオスが新たに編み出した魔法術式によって創造された魔法生物説。
 答えはNON。そもそもこの長方形の物体からは魔力を感じないので、上に挙げた二つの説はあり得ないだろう。
 それに、この長方形の物質は、ローグが知る限り「ディスプレイ」という物であり、魔法に使うものではない。
 そういえば、シルバリオスは普段よりもラフな出で立ちで如何にもリラックスしているように見える。
 ならば、これはもしかして「娯楽」というものなのではなかろうか。
 だとすると、これはローグにとっては難しい問題だ。
 ローグは娯楽に興じる事が少ない。
 これはアガトラムも同じで、二人共普段は研究ばっかりやっている、根っからの科学者体質なので、娯楽という物がイマイチピンと来ないのだ。
 それこそ、娯楽といえば、アガトラムが子供の頃に読んだ魔導書位のものであり・・・
 いや、本当にそうであろうか。ローグは、アガトラムは、この平面体の少女達と似たものを知っていた。
 そう、アレは父の書斎の隅の方、隠されるかのように埋もれていた。
 他にあった魔導書とは毛色が違う書籍群。
 背表紙には、「キノの旅」と書かれていた、その本。
 少女と意思を持ったバイクが駆け抜けた、国と国のその間、物語の軌跡の内に確かに挟まれていたあの「絵」。
 そうだ、あれは、今自分見ているこの、平面体の少女達とよく似ているのではないか。
 もっとも、あの絵はこの平面体の少女達のように、動きも喋りもしなかったので、シルバリオスが今観ているこれは、アガトラムが当時見たそれより幾分か、高尚で高級な物なのだろう。
 それは実にシルバリオスらしいとローグは思ったのであった。
 答えは出た。
 シルバリオスが観ているこれは、一つの娯楽であり、物語であり、絵。
 そしてそれは、恐ろしく高度な技術と熱意で以って作られた。ローグやアガトラムの知る限り、最も高級な、最も完成度の高い、言わば『究極の娯楽』だということだ。
 シンキングタイム終了。
 この間0.002秒。
 なんという感動だ。
 この世にはこの様な物が存在し得るとは。
 ローグはこの時ばかりはシルバリオスに心の底から感謝した。
 この素晴らしき娯楽に出逢えたこの奇跡。
 ならばこの感謝。
 伝えよう。
 そして、許されるならば、共有したい。
 この娯楽を。
「シルバリオス
  おまえすげーもン観てンじゃねェk」





「ちョッと待ッてちョッと待ッて理解不能理解不能理解不能
 なんで拘束されてるノ⁉︎なんでこんな睨まれてるノ⁉︎なんでこんな殺意向けられてるノ⁉︎」
「悪いなローグ
 沽券に関わるんだ
 割と切実に」
 感動の言葉を伝えようとしたら其処には鬼の面があった。
 と思ったら次の瞬間には、ローグのセリフ通りである。
「Heh heh 落ち着けよベリー
 何もおまえが年がら年中食べる時も寝る時もあの無駄にモッフモッフした服で日々暮らしているなンて誰も思ッちャいねーサ
 服装にはTPOッてヤツがあるからナ
 だから今のそのラフな服装をおれに見られた所で恥ずかしがる事なンてなにもないンだゼ?」
 ちなみに、ベリーとはローグがシルバリオス対して付けたあだ名である。
「話を逸らすのが下手だな
 ロ ー グ」
「OK判ッた
 アレだな
 おれがおまえの部屋の棚にワープホール勝手に設置したのが気に食わないンだロ?
 判ッてるッてちョッとした冗談じャねーか
許してくれよスイートハーツ?」
 ちなみに、スイートハーツというのもローグがシルバリオスに対して付けたあだ名である。
「そんな事はどうでもいい」
「エェェエエエエエ⁉︎どうでもいいンスかーーーーァ⁉︎⁉︎」
 シルバリオス、貫手の構え。
 攻撃開始10秒前。
「よくアニメで観るのだが・・・
 頭部に衝撃を受けると前後の記憶が飛ぶ演出があるんだ。
 実際にやったらどうなるんだろうな?」
「そりャ飛ぶでしョうヨ‼︎
 おまえがやッたら脳味噌ぶッ飛ぶからそりャ記憶も何もかも木ッ端微塵に消し飛ぶワ‼︎
 ッていうかなに?そのアニメッていうのはもしかしてアレのこt
 ・・・ッて待て待て待て待て待て待てそれほンとに死ぬヤツだから‼︎
 マジでおまッ助けてお願いなンでもしますからッッ
 イヤーーーーーァアッッッ‼︎‼︎」
 ちなみに、シルバリオスの構えは厳密に言うと改良版「紐切り」の構えである。
 鎬昴昇のアレである。
「タンマッマジタンマッッッ
 弁解ッ弁解の余地・・・」
 無し。
 現実は非情である。
 時間も既に切れている様で、シルバリオスは容赦なくローグに攻撃した。
「邪ッ」
モルスァ‼︎」
 瞬時に途切れるローグの意識。
 かくしてローグの記憶は消し去られた。
 物理的に。
 ローグが次にアニメを知る事になるのは、大分先の事なのであった。

??/?? ??:?? 位置不明

 『それ』に気付いたのは一人だけではなかった。辺りに木霊する無数の叫びを聞けば城内の全員がそれに気付いているのは明白である。老若男女の区別なく、見てすらいない『それ』に対して恐れ、嘆き、只管に祈った。そこに倒れている女はきっと気絶したのだろう。そうした有象無象を掻き分けるように唯一人、この目で『それ』を見定めようとバルコニーに出た魔王が見た『それ』は。布に零した黒いインクのように遠方の空を覆っていき、そしてーーー急激にこちらに向かってきた。

何かしらの予告






「何かが、誰かが、何者かが、この道の先に居る」

「ぼくに名前なんて要らない・・・です」

「この者は危険です!」

「ぼくにそんな気をかけなくてもいい・・・です」

「何故貴殿は泣く?」

「我が主に何かあったら私は・・・」

「自分は相手の名前をちゃんと覚えているのに相手は自分の名前を覚えてない」

「こいつの中には何か別の何かが居る・・・?」

「今更わるものなんかに戻りたくない‼︎」

「おれはおれに忘れられた」

「貴殿は何だ?」

「おれという人格を否定されタ」

「貴殿は誰だ?」

「おれとイう存在をおれガ忘れるトイうのナラ」

「貴殿は何者だ?」

「オレにえがオをムケルスベてノモノヲコロシ、オレトイウソンザイガナンタルモノカ、ワスレサセナイヨウニヨウニスルシカナイ」




「HAHAHAHAハハハハハはははは、ははぁ、はぁ、ひい、ふう、ひはぁ・・・・・アハァ」

欠片達の物語 プニートニフパニック 3

 ヴァレンティナは、事故に巻き込まれた者達に手当たり次第に話を聞いていけばそのうち事件に関わる何かを知っている人物に辿り着くとは考えていなかった。その事は二年前に治安維持部が証明していたからだ。
エクス・イグナイトは、ナイツロードにおいては特に重要な役職を持っているでもなく普通の一団員なのだがナイツロード内のあらゆる情報にことさら詳しく情報屋の一面を持っている男だ。その情報の中には時に幹部ですら知り得なかった事柄(団員の趣味嗜好や交友関係等)があったりするのだ。
ーまずはこの男に話を聞いてみようー
 ヴァレンティナは、事件の被害者が治療を受けている医療室に足を向ける事にした。

ーPM 2:13 医療室ー
 「やぁ、もしかしたら来るんじゃ無いかとは思っていたよヴァレンティナちゃん
ニートニフは元気かい?あいつの所為で右腕が暫く使えないようになってしまってね、今度あいつに俺が文句を言ってたって伝えてくれないか?」
「生憎てめえの右腕なんぞには一欠片の興味も無ぇし寧ろざまぁとすら思ってるから断る」
 ニヤニヤしながらベッドに居座るエクスの周りには、お見舞いに渡されたのであろう沢山の花束が置かれていた。一緒に添えられているメッセージの字を見るに全て女から送られてきたものだろう。
「あいも変わらずモテモテのようだな」
 ヴァレンティナが言葉を吐く。
「どういう訳か面会規制が入ってるもんだから可愛い彼女達の顔が見れないのが残念だけどねぇ」
 ニヤニヤ顔を、ふとエクスは獰猛な笑みに変えながらこう続けた。
「・・・何か・・・・・吹き込まれたら困る事でもあるのかな・・・・・・?」
 そう言って嫌らしい目をしたエクスは、包帯を巻かれた右腕を軽く振って見せた。
 この場にはエクス以外にも多数の怪我人が寝泊まりしている。当然ナイツ・オブ・ラウンド「プニートニフ」の使役する魔獣によって傷を負ったものも少なくはなく、それどころかその傷が原因で死亡した者も多くはないが確かに居るのだった。
「・・・・・別に何かをチクられて困る事なんざぁ何もねぇよ」
「ふ〜〜〜〜〜・・・ん・・・・・?」
 数秒間、重苦しい沈黙を場が支配した。ヴァレンティナはこの男と話すのが苦手である。この男と会話をする時はいつも、自分の心の中を無理矢理メスでこじ開けられて隅々まで覗き込まれている気分になる。エクスの周りにいつもいる囲いの気持ちが知れない。よくあんな怪しい男に心を許す気になるものだ。
「所で」
 沈黙を破ったのは、目の前にいる女の顔を頬杖を突きながら面白気に見ていたエクスだった。
「用事があって来たんだろ?知りたいのは・・・今回の事件を起こした犯人かな?」
「あ、あぁ、情報屋であるてめえなら、何か知ってるかもしれねぇと思ってな
噂でもなんでもいい、どんな些細な情報でもいいから何か教えてくれねぇか」
「んー、300$でいいよ♪」
 ヴァレンティナが札束をエクスの体に投げつける。
「毎度」
 札束を確認する。
「確かに300$頂戴した
・・・それじゃ、特別に君にはこれを見せてあげるよ」
 そしてエクスは左手を前にかざした、するとパソコンのディスプレイのようなものが浮かびだし、スーッと移動してヴァレンティナの顔の前で止まった。そこには、ナイツロードの基地内の図面に何かを囲うような丸、その横には日付が表示されていた。
「なんだこれは」
「なんて言ったらいいのかな、怪しい噂ってやつさ。その四月六日のはビビ・ルーニアが廊下を歩いていたら首筋の後ろから生温かい息を吹きかけられた所、五月三日のはフレディ・ボーニーが小さい影に襲われた所、その五日後の五月八日はアースラ・クワイエットが・・・」
「ちと待ちやがれ、それはあれか?コンビニの雑誌売り場に置いてあるちんけな怪談の本に書いてあるような内容じゃあ・・・」
「まぁ、団員の中では概ねそういった解釈で会話のネタに」
「てめえそんな事で300$払わせやがったのかこの」
「落ち着いて聞いてくれよミセス。いいかい?これが本当にそこらの町の雑誌コーナーに売られてるような本に書いてあるんなら鼻で笑われても仕方ないがこれは事実だ。本人に確認を取った時も嘘をついてるようには見えなかったしそれに、この狭い範囲でこんな連続して息を吹きかけられたり小さな影に襲われたり人が苦しむような声が耳元でずっと囁かれたり電気が点いたり消えたりするものか、なにより、被害者は口を揃えてこう言ってるんだ」
「なんだ」
「恐怖を感じたと」
「恐怖を?」
「そこはかとない恐怖を、足がすくむような恐怖を、息ができなくなる程の恐怖を、百戦錬磨の傭兵が、数々の死線を越えてきた兵士達がそんなちんけな怪談話に出てきそうなもので恐怖を感じたんだ。今回の事件のように」
「そのちんけな怪談のような話が、今回の事件に関係あるとでも?」
「調べてみる価値はあるんじゃないの?その日付のその場所の、監視カメラなり探知魔法器なり」
「・・・・・」
「ちんけな怪談だが・・・凄く『怪しい』ぞ」
「・・・分かった、調べてみよう」
 そう言うと、ヴァレンティナは礼は言わずに踵を返し、その場を後にしようと思ったのだが・・・。
「今回の事件の事、外の連中は知ってんのか?」
「広報部の書いた騎士道団新聞?とかいうやつで大体の内容は伝えられてた筈だが」
「プニートニフが大量殺人者という事実は隠してか?」
「んだとエクス・・・ッ」
「ヒッヒッヒッヒッヒ。二年前と同じだなぁ、何もかもが、キャストが違うだけで同じ演劇を見ているようだ。」
「二年前とは違う。私が居る。この事件は解決する。」
「それはどうかな」
「それにだ。プニートニフを加害者みたいに言うのは止めろ、 あいつは『被害者』だ・・・ッ」
「それは無ぇ」
 数秒間の沈黙の後、今度こそヴァレンティナは舌打ちをしてからその場を去るのだった。





 医療室を出て少し進むとヴァレンティナはある小柄な少女に出会った。
「あ、ヴァレンティナさんこんにちは!」
「てめえは確か・・・・・フリーナ・・・だったか?」
「はいっフリーナ・ウォン・クリスタハートです。
・・・あのぉ、エクスにはまだ会えないんでしょうか?」
「悪いな、まだ療養中だ」
「うーん、会うくらいならいいと思うんですけど・・・」
「心に深い傷を負った人間ってのは何をやらかすか判らん、いきなり暴れたり襲ってきたりするかもしれないからな。まぁ、エクスは割と安定してはいるがそれでも念のため、な」
「ふーむなるほどぉ。じゃあじゃあそれならプニートニフさんは何処にいるんですか?」
「プ、プニートニフ?何か用でもあるのか?」
「はいっ!うち騎士道団新聞でプニートニフさんが獅子奮迅の働きでこの前の事件を鎮圧したって知って・・・」
「はぁ・・・」
「それでプニートニフさんにその武勇伝を聞いてみたいなーって」
「悪いなフリーナ、あいつもあいつでいつもふざけてる様に見えるが一応幹部でな、そう簡単にほいほいと一団員とは会えないっていうか・・・」
「そーなんですか・・・、それは残念です」
「あぁほんと悪いな、それじゃ」
「はい、お仕事頑張ってくださいねー!」
 フリーナと別れたヴァレンティナは一人溜息をついた、内が読めない者と話すのも疲れるが純粋な少女を騙すのも心苦しいものだったからだ。





 監視カメラや探知魔法器の調査を命じたヴァレンティナが次に会ったのはこれまた小柄な、しかし女性を象徴するそれは立派なとある魔族、そうプニートニフに会ったのだが、プニートニフはヴァレンティナには目もくれず横を通り抜けると。
「ちょっとなんなのさコレは!」
その先に居た中年の男ーーヴァレンティナのよく知っている人物ーーにこう問い詰めた。
「ん?いきなり何ですか、プニートニフさん」
「コレだよコレ!」
「これは・・・広報部出版騎士道団新聞、ナイツロード内で起こったあんな事件やこんな出来事をピックアップした・・・」
「そうじゃなくて内容の事!」
「毛色は白黒赤い首輪を・・・」
「なんでそんな迷子の子猫探しとかいうちっちゃな記事を真っ先に読んでんのサ⁉︎この一面のでっかい記事!」
「『再び起こった怪事件 解決したのはまたもやKORだった!』・・・あなたの輝かしい活躍の書かれた記事じゃないですか。何が不満なんです?誤字でもあったんですか?」
「誤字所か全てだよ!アタシは解決なんかしてない!むしろ暴走して沢山の人を傷つけてしまったと言うのになんでこんな事が書かれてるのサ⁉︎」
「えーー・・・、そんな事を聞きに来たんですか?」
「そ、そんな事って・・・⁉︎」
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「ふーーーーーっ、いいですかぁプニートニフさん。貴女が暴れて多数の団員を殺害した。そんな事が知れたらKORの権威は失墜します。それを防ぐにはこうしないといけないんです」
「被害者は?今医療室にいる人たちが治って外に出たらそんな嘘直ぐにバレるんじゃないの?」
「安心しなさい。精神療法の一環としてこの事件の記憶は彼らの頭からは消去します。貴女のした事を言いふらす人間はいません」
「さ、最低・・・」
「最低?解りませんねぇ、記憶を消した所で誰が傷付くんです?被害者は嫌な記憶を消せてハッピー、貴女は今迄通りに暮らせてラッキーじゃないですか」
「だって・・・だって、そんな・・・・・」
「お話しは終わりですか?私も暇じゃないので・・・では」
 そして男は三歩歩いた所で。
「あぁ、そうそう・・・プニートニフさん。しないとは思いますがぁ・・・この事を一般団員に言いふらしたらぁ・・・・・まぁ、言わなくても解ると思うんですけどねぇ?他の幹部の方にも迷惑がかかりますし・・・くれぐれも新聞のあの記事が嘘だなんて事、バラしちゃいけませんよ・・・?」
 そう言い残して、その場を去ろうとした男だが、立っていた女ーーヴァレンティナの事であるーーに行く手を阻まれた。
「なんですかヴァレンティナさん、その顔」
「悪役の親玉かなにかかてめーは」
「おやそんなに悪そうな顔してましたか私」
「ああもうなんていうかいっそ清々しい位に悪(Vice)って感じだったぞ 少なくとも正義側の人間とは思えねー」
「結構、正義などという陳腐な言葉は夏の公園の公衆便所にでも流してしまいなさい」
「あんたの正義嫌いは相変わらずだな・・・。それよりも、プニートニフを必要以上に虐めないでくれ、あー見えてもまだ心の傷が完全に治った訳じゃない」
「それは失礼、責められてる女性てのはまぁ可愛いものでつい虐めたく・・・」
「死ねよ」
「直球ですねぇ!冗談に決まっているでしょう?」
「はぁ・・・、とにかくそっとしてやってくれ
・・・頼む」
「えぇ、えぇ、解りましたよ 長話が過ぎましたね、早く行かないと・・・あー、忙しい忙しい団長は忙しいですねぇ」
 そういうと男は両手をポケットに入れてふらりふらりと歩き去って行った。彼こそは、ナイツロード団長「レッドリガ」その人であった。

欠片達の物語 プニートニフパニック 2

ー参日前ノ出来事ー
 その事件はナイツロード本部にある一つの区画「生活区」で発生した。一言で言ってしまえば『喧嘩』なのであるがこの事件をその一言だけで言い表してしまうのは些か、いやかなり説明不足だろう。此度の案件は事件と言うより怪事件と言った方が状況に合致している。まず一つに規模が唯の喧嘩のそれではない。負傷者数は悠に20人を超え、噂では死者も数人出ているらしい。そしてもう一つ、今回のこの事件を怪事件たらしめる要因、それは。
「事件に関係した人達皆が口を揃えて何故かは判らないけど途轍もない恐怖を感じたって言ってるんだったか?」
「うん、目に付く人全てが怖くて怖くて堪らなかったんだって とっても不思議ですよね」
 ジョニー・ベルペッパーは、すぐ横で少し興奮して話すフリーナ・ウォン・クリスタハートの方に目だけを向ける。ジョニーには、エクス・イグナイトという知り合いがいる。時々一緒に戦ったり、時々一緒に会話したり、時々一緒に訓練をしたりする程度の仲である。そのエクスがこのフリーナともう一人「アルティナ・ニオベ」という少女をナイツロードに連れて来たのはほんの二ヶ月前の事だ。エクスは、オブラートに包んで言えば変態である。ストレートに言えばド変態だ。女の子の好みは貧乳娘だしフリーナとアルティナは前者がAカップ、後者はAAである。ジョニーが内心、というか態度に出してエクスに対して誘拐の疑念を向けたのは決してジョニーの心が歪んで人を疑う事しかできないという事が原因ではないという事は明確かつ絶対的な事実である。
ーーーというかそうとしか思えねぇよ俺はーーー
 ジョニーはそんな事を考えていたがふと、フリーナの表情が曇っている事に気付いた。
「どーしたんだ?いきなり」
「実は・・・、エクスがその事件に巻き込まれてて」
「何?あのエクスがか?死んじゃあいないだろうな」
「命に別状はないみたいです。右腕を怪我してるけど問題ない程度に回復するって」
「なんだ、良かったじゃないか いや、事件に巻き込まれた事は決していい事ではないが」
 フリーナは小さく溜息を吐く
「もう二度とこんな事は起きないといいんですけどね」
 あの変態男によくもまぁ、そこまで心配できるものだ、洗脳でもされてんじゃないのか?
 そんな失礼な事をジョニーは考える。確かに、エクスは科学兵器製造の天才でたり、また上記の性格もあるのでそういう事をやったというのも否定できないのだが。
 ジョニーはここでふとある事を思い出した。此度の事件の事である。そういえばあんな事があったなと、ジョニーは呟くようにこう言った。
「あの事件・・・数年前にも起こってるんだよなぁ」
「え・・・・・?そうなんですか?」
 フリーナは体をジョニーに近づけながらこう聴いた。ジョニーは逆に少しフリーナから体を引きながらこう続ける。
「確か二年前に今回の事件と全く同じ事が起きたんだ。あの時は死者も結構多かった気がするし、辺り一面チリチリに焦げてるしで結構印象的だったんだが忘れてたなぁ。今思い出したよ」
「それで、その時も原因は解らなかったんですか?」
「てんで解らなかったらしい。治安維持部の炎歌姫フクシアが悪口言われた訳でもないのにイラついてたってよ ・・・ッと」
 ジョニーは腕時計を確認する。
「そろそろ行かないと。珍しく訓練教官の仕事が入ってるんでな」
「あれ、そうなの?そういえばジョニーの訓練ってあんまり人気ないんだっけ」
「うっせ そんじゃな」
「うんまたねー 今度ウチもジョニーにら訓練付けてもらおっかなぁ」
「戦えんのかおまえ」
「まぁ、そこそこ」
「だが小さい女を痛めつけるのは性に合わないから止めておくよ」
 そう言い残して、ジョニーはこの場を去っていった。





「いやーー、ほんと参ったヨ このアタシが三日間だけとはいえ部屋で一人ナニカにひたすら怯えたり震えたりしながら過ごしてたなんテ。ハハハ!さぁ、ティナちゃんこんなかわいそーなアタシを今直ぐ慰めるのデス! こーんな感じに胸に抱き寄せて耳元で囁くように『大変だったなプニートニフ もう安心だぜ』なんて言われたらもう心がキュンキュンしてティナちゃんに惚れてしまうかモ!もしそんな事になったらこの不肖プニートニフ、以降百合百合ネチョネチョR-18展開になったとしても満更でもなかったりしたりしちゃうんだけド」
「悪いな、少し黙っててくれ そして消えろ うざい」
「エーそんな扱いするなんてヒドイ!アタシ病み上がりなのに!いやむしろ闇上がりだとゆーのニ!」
「私はこれから事件の被害者に話しを聞きにいく所なんだ 付きまとうのはマジでヤメロ つーかお前はしっかり部屋で休め、まだ顔色が悪いんじゃあねーか?」
「は・・・ッ⁉︎ なんだかんだ言っておきながらアタシの事を心配してくれるだなんテ・・・! 分かったよ、ティナちゃん アタシちゃんと休んでル!そして部屋でズットティナちゃんの事待ってル!」
「そうか、一生来ねぇから安心しろ じゃあな」
「そうだティナちゃん 事件の被害者に話し聴くならアタシでもい・・・」
 ガチャン
 全てを聴く前にヴァレンティナは扉を閉めた。プニートニフと話をするのは疲れるのだ。ただ、心の底から嫌っている訳ではないのだろう。扉を閉めた時のヴァレンティナは少し安堵したような顔をしていた。事件に巻き込まれた直後のプニートニフの容体はそれはもう酷い物だったのだ。それがこうしてヴァレンティナに対してちょっかいを掛けれる程度に回復した。ヴァレンティナはプニートニフのちょっかいに対しては辟易していたが今回ばかりはそのちょっかいは彼女の回復の証であり、そしてヴァレンティナはそのちょっかいが少しばかり嬉しかった。ただ、プニートニフにその感情を認識されるのは癪なので、それを表に出す事は決してないのだが。
だがヴァレンティナの心は決して安堵ばかりはしていなかった。彼女の心の中に渦巻くもう一つの感情。それは「怒り」である。仲間を傷付けられた事による激情である。治安維持部のフクシアは常日頃物事を楽観的に見すぎる所がある、フクシアがボンクラとは言わないが、この事件、あの女に解決できる事ではないと、ヴァレンティナは考えていて、だからこそ、今から事件に巻き込まれた人物に話を聴くことにしたのだ。ナイツロードの治安の為に、仲間を傷付けられたやり場のない怒りを沈めるために。彼女は断固として、この事件を解決せんと決意したのだ。

欠片達の物語 プニートニフパニック 1

 彼女の視線には、二通りの人間が映っていた。逃げ惑う人間と地面に伏している人間。倒れている人間の方が多いだろうか。其処彼処に緑と赤が混じった液体が付着しており鼻を突くような吐き気を催す刺激臭が漂っていた筈だが彼女にはその匂いは感じられなかった。否、最早先刻まで見えていた人の群れも彼女の眼には映ってなどいなかった。
 ーーーあの子はもうこの世には存在していない筈だーーー
 魔獣である。彼女が生まれて初めて『契約』し、家族に殺された筈の魔獣が、倒れ伏していた人間の代わりに地面に大量に横たわっていた。壁に着いた見るに堪えない液体よりも、漂う刺激臭よりも、何よりも彼女の精神を刺激する。
 魔獣の腹が裂ける。中から捩れた紐状の物体と夥しい量の血液が溢れ出て、床に赤い水が溜まっていった。彼女は後ずさるが三歩歩いた所で何かに体が当たり遮られた。
 ーーーさっきおまえは元の場所に戻した筈だーーー
 召喚していない筈の漆黒に覆われた魔獣が彼女の顔を覗いていた。普段なら可愛いと感じる筈の彼が今の彼女にはこの上なく恐ろしかった。理由は判らないが、何故かは判じかねるが。眼に映るもの全てがただただ恐ろしかった。既に液体は目の下の部分に迄達しており、直後に彼女の視界は赤黒く染まっていた。





ーーーKYYYYAAAHHHHHッッ‼︎‼︎!ーーー





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ナイツロード本部 レヴィアタン 居住区屋上

  転落防止の鉄柵と申し訳程度のベンチ。それ以外は無駄にだだっ広いだけの場所。それが居住区の屋上である。ジョニー・ベルベッパーは鉄柵の前に立つと、懐からライターとタバコを取り出し火を付けた。銘柄は「ショートピース」である。数あるタバコの中でも特に甘みのある味わいを持ち、芳醇な香りは味わった者の心を虜にして離さない。だがしかし、このショートピースというタバコを味わう為にはそれなりの喫煙技術が必要である。タバコの葉の成分は熱に対してあまり強くない。強く吸い過ぎると火種周辺の空気の流れが速くなり、火種が大きく、そして高温になってしまう、故にこのタバコを吸う時にはスプーン一杯の熱々のスープを恐る恐る口に入れるが如くゆっくりと、弱く吸わなければならない。
 口腔喫煙も心掛けなければならない。口腔粘液からはニコチンが僅かずつしか吸収されないが味や香りを楽しむならば、煙を肺にまで入れる事は愚かな行為であると言える。
 これらの技術を総称してクール・スモーキングと呼称するのだ。
 ジョニーは、暫くショートピースの味を堪能していたのだが・・・。
「どっしゃーい!」
「うぉお⁉︎」
 不意に股間部から押し上げられるような衝撃と浮遊感にそれは遮られる事になった。驚きつつも下を覗くと。
「獲ったどーー!」
「危ねぇな⁉︎後ろから忍び寄っていきなり体を持ち上げんじゃねぇ!灰が落ちるだろーが!」
 身長140cm程度の小柄な少女が立派な大人であるジョニーを軽々と持ち上げていた。少女は、ジョニーを地面に戻すとこう言った。
「びっくりしました?」
「あぁ、びっくりしたよ。・・・しかしフリーナよ、大人をからかうのはよした方がいいぞ?」
 そう言われた少女。ーーーフリーナ・ウォン・クリスタハートーーーは、少し悪戯っぽく笑った後、悪気がありそうに謝った。
 そういえば、前にファルという少女とこの様なやりとりをしたような気もする。
 ファルは今目の前に居る少女よりもさらに小さかったが。
「一体なんだってこんな屋上に来て、あんな事をしたんだ?」
「少し海でも見ようと思ってね、そしたらジョニーが居たから出来心でつい、ネ」
「へぇ、そうかい」
 そして、少しの間はこの場を沈黙が支配した。いつかのファルとのやりとりもこういった潮風の音を共に聞いていたのだったろうか。
 暫くして、フリーナがこのような話を持ち掛けてきた。
「6日前に起こった事件の事は、知っていますか?」
「事件というと・・・あぁ、アレの事、か」





「あの事件・・・数年前にも起こってるんだよなぁ」
「え・・・・・?そうなんですか?」





この事件こそが彼女の、フリーナ・ウォン・クリスタハートという一つの物語の始まりを示すものだと彼女が気付くのは、もう暫く後の事である。

欠片達の物語 プロローグ

 ・・・・・・・・・引き受けてくれるの? ありがとう・・・!本当に、本当に。言葉じゃ言い表せないくらいに・・・。
 え?・・・・・そう、そうだよね。あはは、あなたはいつもそうだったよね。『おもしろそうだからやる。』それでも、わたしは嬉しいから・・・感謝してるから、ありがとうって、言わせてほしいんだ。
 ・・・うん、できるよ。運命を司る思念体。道標の女神オーサー(作者)と。このわたし。知識を司る思念体。授ける子ワイズマン(賢者)の二人が手を合わせれば。絶対に、絶対に絶対にあの人を・・・・・ローグ(悪者)を救う事ができる!
 それと・・・そう、この娘にも頑張ってもらわなきゃね。まぁ、わたしが精一杯頭をひねって考えた自信作なんだから、心配する必要も無いとは思うけれど。いざ本番になると心配してしまうものだよね。
 ・・・・・失敗は許されないんだ。一回失敗したら同じ手は食わないかもしれない。だから・・・頼んだよ。
 私が考えた・・・・・絆を司る人造思念体。救いの子『ラブズ(愛者)』あなたに全てがかかってるんだから・・・!