欠片達の物語 プニートニフパニック 2

ー参日前ノ出来事ー
 その事件はナイツロード本部にある一つの区画「生活区」で発生した。一言で言ってしまえば『喧嘩』なのであるがこの事件をその一言だけで言い表してしまうのは些か、いやかなり説明不足だろう。此度の案件は事件と言うより怪事件と言った方が状況に合致している。まず一つに規模が唯の喧嘩のそれではない。負傷者数は悠に20人を超え、噂では死者も数人出ているらしい。そしてもう一つ、今回のこの事件を怪事件たらしめる要因、それは。
「事件に関係した人達皆が口を揃えて何故かは判らないけど途轍もない恐怖を感じたって言ってるんだったか?」
「うん、目に付く人全てが怖くて怖くて堪らなかったんだって とっても不思議ですよね」
 ジョニー・ベルペッパーは、すぐ横で少し興奮して話すフリーナ・ウォン・クリスタハートの方に目だけを向ける。ジョニーには、エクス・イグナイトという知り合いがいる。時々一緒に戦ったり、時々一緒に会話したり、時々一緒に訓練をしたりする程度の仲である。そのエクスがこのフリーナともう一人「アルティナ・ニオベ」という少女をナイツロードに連れて来たのはほんの二ヶ月前の事だ。エクスは、オブラートに包んで言えば変態である。ストレートに言えばド変態だ。女の子の好みは貧乳娘だしフリーナとアルティナは前者がAカップ、後者はAAである。ジョニーが内心、というか態度に出してエクスに対して誘拐の疑念を向けたのは決してジョニーの心が歪んで人を疑う事しかできないという事が原因ではないという事は明確かつ絶対的な事実である。
ーーーというかそうとしか思えねぇよ俺はーーー
 ジョニーはそんな事を考えていたがふと、フリーナの表情が曇っている事に気付いた。
「どーしたんだ?いきなり」
「実は・・・、エクスがその事件に巻き込まれてて」
「何?あのエクスがか?死んじゃあいないだろうな」
「命に別状はないみたいです。右腕を怪我してるけど問題ない程度に回復するって」
「なんだ、良かったじゃないか いや、事件に巻き込まれた事は決していい事ではないが」
 フリーナは小さく溜息を吐く
「もう二度とこんな事は起きないといいんですけどね」
 あの変態男によくもまぁ、そこまで心配できるものだ、洗脳でもされてんじゃないのか?
 そんな失礼な事をジョニーは考える。確かに、エクスは科学兵器製造の天才でたり、また上記の性格もあるのでそういう事をやったというのも否定できないのだが。
 ジョニーはここでふとある事を思い出した。此度の事件の事である。そういえばあんな事があったなと、ジョニーは呟くようにこう言った。
「あの事件・・・数年前にも起こってるんだよなぁ」
「え・・・・・?そうなんですか?」
 フリーナは体をジョニーに近づけながらこう聴いた。ジョニーは逆に少しフリーナから体を引きながらこう続ける。
「確か二年前に今回の事件と全く同じ事が起きたんだ。あの時は死者も結構多かった気がするし、辺り一面チリチリに焦げてるしで結構印象的だったんだが忘れてたなぁ。今思い出したよ」
「それで、その時も原因は解らなかったんですか?」
「てんで解らなかったらしい。治安維持部の炎歌姫フクシアが悪口言われた訳でもないのにイラついてたってよ ・・・ッと」
 ジョニーは腕時計を確認する。
「そろそろ行かないと。珍しく訓練教官の仕事が入ってるんでな」
「あれ、そうなの?そういえばジョニーの訓練ってあんまり人気ないんだっけ」
「うっせ そんじゃな」
「うんまたねー 今度ウチもジョニーにら訓練付けてもらおっかなぁ」
「戦えんのかおまえ」
「まぁ、そこそこ」
「だが小さい女を痛めつけるのは性に合わないから止めておくよ」
 そう言い残して、ジョニーはこの場を去っていった。





「いやーー、ほんと参ったヨ このアタシが三日間だけとはいえ部屋で一人ナニカにひたすら怯えたり震えたりしながら過ごしてたなんテ。ハハハ!さぁ、ティナちゃんこんなかわいそーなアタシを今直ぐ慰めるのデス! こーんな感じに胸に抱き寄せて耳元で囁くように『大変だったなプニートニフ もう安心だぜ』なんて言われたらもう心がキュンキュンしてティナちゃんに惚れてしまうかモ!もしそんな事になったらこの不肖プニートニフ、以降百合百合ネチョネチョR-18展開になったとしても満更でもなかったりしたりしちゃうんだけド」
「悪いな、少し黙っててくれ そして消えろ うざい」
「エーそんな扱いするなんてヒドイ!アタシ病み上がりなのに!いやむしろ闇上がりだとゆーのニ!」
「私はこれから事件の被害者に話しを聞きにいく所なんだ 付きまとうのはマジでヤメロ つーかお前はしっかり部屋で休め、まだ顔色が悪いんじゃあねーか?」
「は・・・ッ⁉︎ なんだかんだ言っておきながらアタシの事を心配してくれるだなんテ・・・! 分かったよ、ティナちゃん アタシちゃんと休んでル!そして部屋でズットティナちゃんの事待ってル!」
「そうか、一生来ねぇから安心しろ じゃあな」
「そうだティナちゃん 事件の被害者に話し聴くならアタシでもい・・・」
 ガチャン
 全てを聴く前にヴァレンティナは扉を閉めた。プニートニフと話をするのは疲れるのだ。ただ、心の底から嫌っている訳ではないのだろう。扉を閉めた時のヴァレンティナは少し安堵したような顔をしていた。事件に巻き込まれた直後のプニートニフの容体はそれはもう酷い物だったのだ。それがこうしてヴァレンティナに対してちょっかいを掛けれる程度に回復した。ヴァレンティナはプニートニフのちょっかいに対しては辟易していたが今回ばかりはそのちょっかいは彼女の回復の証であり、そしてヴァレンティナはそのちょっかいが少しばかり嬉しかった。ただ、プニートニフにその感情を認識されるのは癪なので、それを表に出す事は決してないのだが。
だがヴァレンティナの心は決して安堵ばかりはしていなかった。彼女の心の中に渦巻くもう一つの感情。それは「怒り」である。仲間を傷付けられた事による激情である。治安維持部のフクシアは常日頃物事を楽観的に見すぎる所がある、フクシアがボンクラとは言わないが、この事件、あの女に解決できる事ではないと、ヴァレンティナは考えていて、だからこそ、今から事件に巻き込まれた人物に話を聴くことにしたのだ。ナイツロードの治安の為に、仲間を傷付けられたやり場のない怒りを沈めるために。彼女は断固として、この事件を解決せんと決意したのだ。