読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

UNKNOWNS短編〜究極の娯楽〜

 ローグのシルバリオスに対しての感情を一口に表すのは難しい。
 もっと判りやすい表現をするならば、「好き」か「嫌い」か二択で選べと言われれば、これはローグにとって実に複雑怪奇な超難問と言える。
 まぁ、実際問題問い質されれば彼は冗談めかして「嫌いに決まッてンだろバーカ」等と宣うのだろうが。
 実際、シルバリオスのあの常に上から目線。「絶対上位存在的態度」は「常時過激的反骨精神旺盛」なローグにとっては、実に、実に気に入らない事柄なのであった。
 それはもう、腕にたかる蚊程度には。
 一方で、シルバリオスの側に居るのはどういう訳か、こう、「安心」する。
 絶対害悪存在たるシルバリオスの側に居て安心するというのもおかしな話ではある。
 恐らくは、根本に似通っている部分があるのだろう。魂の奥底に揺蕩う悪の波紋の、その波形が。
 悪を美学とする魔神を、悪の具現たる亡霊が求めるのも、それはそれで至極当然の事なのかもしれない。
 或いは、ローグの内に潜むもう一つの人格の所為だろうか。
 「アガトラム(銀の腕)」その名は他ならぬシルバリオス様より賜ったと、彼は誇らし気に言う。
 家庭に恵まれず。来る日来る日も罵詈雑言と暴力の嵐。
 楽しみといえば、父や、母や、兄の目を盗んで、父の書斎にある魔道書を読む事だった、哀れでボロ雑巾のような少年。
 そんな少年の首根っこを掴むように、はたまた髪を掴んで引き摺るようにして、地獄から掬い上げた者こそがシルバリオスであり、その少年こそ後のアガトラムであるのだ。
 少年の眼には、彼が救世の神にでも見えた事だろう。
 シルバリオス的には、使えそうな犬が居たから元から巻いてあった首輪を引きちぎって新しい首輪を巻き付けたに過ぎないのだが。
 アガトラムとローグ、二つの存在は身体的にも精神的にも融合しているので、アガトラムのシルバリオスに対するその信仰が、片割れのローグにも影響を与えていないとは言い切れないし、与えているとも断言できないので、シルバリオスの側にいる時のこの安心感が、自分由来なのかアガトラム由来なのか判然としないのだ。
 「好き」か「嫌い」か選び難いというのは、つまりそういう事なのである。




 これまでの長ったらしい前置きで、読者諸君に伝えたい事はただ一つ。
 ローグがシルバリオスのマイルームに置いてある棚の中に直通のワープホールを置いておいて、突然シルバリオスの私生活に突撃するという事に何の躊躇いも無いという事である。
 だって、やっぱり嫌いなものは嫌いだし。





「Helloooooooシルバリオスくうううーーーーーんんッッッ!!!!!」
 挨拶というのはとても大事な事である。
 ローグは常識と人間的倫理観に従って、元気な声で挨拶しながらその棚の中から現れた。
 さて、部屋をぐるりと見渡せば、上品な壁紙に、上品なシャンデリア、上品なソファーに掛けていたのは、当然の事ながらシルバリオスで、普段身に付けている無駄にモッフモッフした服とは打って変わってラフな装い。
 しかし何より眼を引いたのは、シルバリオスの前方訳1mに鎮座した、この部屋の中では些か無粋な、薄い長方系の物体。
 より詳しく示すなら、その物体に映し出された。
 物理的にも生物学的にも存在し得ない、「平面体の少女達」の姿であった。
 
 シンキングタイム。
 平面体の少女達の黒髪おかっぱ頭の方をA。
 金髪フワフワツインテールの方をBと仮称する。
 まず考えられるのは、シルバリオスによって捕らえられた奴隷A、Bが、なんらかの魔法によってこの長方形の物体に閉じ込められた説。
 答えはNONである。奴隷にしては彼女らは綺麗すぎるし、幸せすぎるように見える。
 次。
 シルバリオスが新たに編み出した魔法術式によって創造された魔法生物説。
 答えはNON。そもそもこの長方形の物体からは魔力を感じないので、上に挙げた二つの説はあり得ないだろう。
 それに、この長方形の物質は、ローグが知る限り「ディスプレイ」という物であり、魔法に使うものではない。
 そういえば、シルバリオスは普段よりもラフな出で立ちで如何にもリラックスしているように見える。
 ならば、これはもしかして「娯楽」というものなのではなかろうか。
 だとすると、これはローグにとっては難しい問題だ。
 ローグは娯楽に興じる事が少ない。
 これはアガトラムも同じで、二人共普段は研究ばっかりやっている、根っからの科学者体質なので、娯楽という物がイマイチピンと来ないのだ。
 それこそ、娯楽といえば、アガトラムが子供の頃に読んだ魔導書位のものであり・・・
 いや、本当にそうであろうか。ローグは、アガトラムは、この平面体の少女達と似たものを知っていた。
 そう、アレは父の書斎の隅の方、隠されるかのように埋もれていた。
 他にあった魔導書とは毛色が違う書籍群。
 背表紙には、「キノの旅」と書かれていた、その本。
 少女と意思を持ったバイクが駆け抜けた、国と国のその間、物語の軌跡の内に確かに挟まれていたあの「絵」。
 そうだ、あれは、今自分見ているこの、平面体の少女達とよく似ているのではないか。
 もっとも、あの絵はこの平面体の少女達のように、動きも喋りもしなかったので、シルバリオスが今観ているこれは、アガトラムが当時見たそれより幾分か、高尚で高級な物なのだろう。
 それは実にシルバリオスらしいとローグは思ったのであった。
 答えは出た。
 シルバリオスが観ているこれは、一つの娯楽であり、物語であり、絵。
 そしてそれは、恐ろしく高度な技術と熱意で以って作られた。ローグやアガトラムの知る限り、最も高級な、最も完成度の高い、言わば『究極の娯楽』だということだ。
 シンキングタイム終了。
 この間0.002秒。
 なんという感動だ。
 この世にはこの様な物が存在し得るとは。
 ローグはこの時ばかりはシルバリオスに心の底から感謝した。
 この素晴らしき娯楽に出逢えたこの奇跡。
 ならばこの感謝。
 伝えよう。
 そして、許されるならば、共有したい。
 この娯楽を。
「シルバリオス
  おまえすげーもン観てンじゃねェk」





「ちョッと待ッてちョッと待ッて理解不能理解不能理解不能
 なんで拘束されてるノ⁉︎なんでこんな睨まれてるノ⁉︎なんでこんな殺意向けられてるノ⁉︎」
「悪いなローグ
 沽券に関わるんだ
 割と切実に」
 感動の言葉を伝えようとしたら其処には鬼の面があった。
 と思ったら次の瞬間には、ローグのセリフ通りである。
「Heh heh 落ち着けよベリー
 何もおまえが年がら年中食べる時も寝る時もあの無駄にモッフモッフした服で日々暮らしているなンて誰も思ッちャいねーサ
 服装にはTPOッてヤツがあるからナ
 だから今のそのラフな服装をおれに見られた所で恥ずかしがる事なンてなにもないンだゼ?」
 ちなみに、ベリーとはローグがシルバリオス対して付けたあだ名である。
「話を逸らすのが下手だな
 ロ ー グ」
「OK判ッた
 アレだな
 おれがおまえの部屋の棚にワープホール勝手に設置したのが気に食わないンだロ?
 判ッてるッてちョッとした冗談じャねーか
許してくれよスイートハーツ?」
 ちなみに、スイートハーツというのもローグがシルバリオスに対して付けたあだ名である。
「そんな事はどうでもいい」
「エェェエエエエエ⁉︎どうでもいいンスかーーーーァ⁉︎⁉︎」
 シルバリオス、貫手の構え。
 攻撃開始10秒前。
「よくアニメで観るのだが・・・
 頭部に衝撃を受けると前後の記憶が飛ぶ演出があるんだ。
 実際にやったらどうなるんだろうな?」
「そりャ飛ぶでしョうヨ‼︎
 おまえがやッたら脳味噌ぶッ飛ぶからそりャ記憶も何もかも木ッ端微塵に消し飛ぶワ‼︎
 ッていうかなに?そのアニメッていうのはもしかしてアレのこt
 ・・・ッて待て待て待て待て待て待てそれほンとに死ぬヤツだから‼︎
 マジでおまッ助けてお願いなンでもしますからッッ
 イヤーーーーーァアッッッ‼︎‼︎」
 ちなみに、シルバリオスの構えは厳密に言うと改良版「紐切り」の構えである。
 鎬昴昇のアレである。
「タンマッマジタンマッッッ
 弁解ッ弁解の余地・・・」
 無し。
 現実は非情である。
 時間も既に切れている様で、シルバリオスは容赦なくローグに攻撃した。
「邪ッ」
モルスァ‼︎」
 瞬時に途切れるローグの意識。
 かくしてローグの記憶は消し去られた。
 物理的に。
 ローグが次にアニメを知る事になるのは、大分先の事なのであった。